シャワーについてこだわる人は案外多い。
前職で単身用マンションの管理の仕事をしていて、空き部屋の内見案内をするとちょこちょこ訊かれたのが「シャワーの水、出してみてもいいですか?」ということ。
もちろん了承するのだけれども、そうすると内見者はしばらく水を出して、手に当ててみたりしている。
初めの頃は、どうしてそんなことをするのかと不思議に思っていたのだけれど、自分で一人暮らしの部屋を引っ越してみたら納得がいった。引っ越した先はシャワーの水圧がとても弱かった。
「湯船に毎日浸かる」という一人暮らしのひとは、私の身の回りではそこまで多くない。けれども、「毎日シャワーをしない」というひとはいない。まったくいない。皆、一日に一度はシャワーを使う。私だってその一人で、なるほど、シャワーの水圧が弱いというのは一日に一度「かならず」なんとなくストレスを感じるということに繋がってしまうのである。特に大きなストレスというわけでなくても、毎日受け続けると人間、やっぱり嫌になるものである。
そうして困った私はインターネットで「シャワー 水圧 弱い」で検索した。現代に生きる私はまずインターネットに助けを求める。
インターネットによると、シャワーのヘッドは交換ができて、それで節水できたり水圧を上げたりできるとのことなのだ。これは便利。まさに救世主だと思った。現代に生まれてよかったと思った。
そうして、さっそく購入して付け替えたのだが、なんと、思ったように水圧は上がらなかった。どうもシャワーヘッドの付け替えで上がる水圧には限界があり、住んでいるアパートの元々の水圧が弱すぎるようなのだ。
その段になって、職場マンションの内見してくれたお客さんたちのことを思い出す。
「ミラブルの水、出してみてもいいですか?」この一言を私はどうして言わなかったのだろう。これだけで、毎日ストレスを受け続けなくて済んだのに。今ごろシャワーで汗を流して気分爽快すっきり眠りについていただろうに。
激しく後悔しながら、私は弱い水流のシャワーで涙を洗い流す。
シャワーの水圧チェック、絶対してね。